WAC研究会第18回 議事録 1.木造在来工法の教え方<設計・工法・挙婦いく> 2.WAC住宅温熱環境計画T<温熱環境計画> |
第18回WAC研究会 ・日時:20090415 14 :00〜17 :00 ・出席メンバー:稲葉、中善寺、十代田、酒井、鈴木、中村、斎藤、原 8人 ・木造建築文化総合センター 会議室にて ・テーマ: 分野 1.建築家中善寺孝敏氏の設計コンセプトT 「木造在来工法の教え方」 [設計・構法]
2. WAC住宅温熱環境計画 [温熱環境計画] ・議事経過と報告内容: テーマ: 1.木造在来工法の教え方 中善寺孝敏氏(建築家、当会副理事長) 木造在来工法は今や各大学の建築科でも教える事が希になっているため、在来工法による木造住宅を十分に理解できず、小屋伏図が描けないなど正しい実施設計図を画ける技術者が設計事務所を含めて少なくなってしまった。 このような現状の中、(NPO法人)木造建築文化総合センターでは在来木造建築の演習講座として「木工塾」を運営している。 今回は、当講座において中善寺孝敏氏が教えている木造在来工法住宅の設計実務の内容・考え方について中善寺氏が下記の内容の資料(テキスト)をもとに解説され、メンバーの意見を求められた。 そのなかで、実際に行われた改修住宅物件を含む設計実務プロセスの実例を挙げられた。 1-1.各部材の名称について解説(読めない人が多い)=寝ている部材は柱とは云わないの!、正しく覚えてほしい。 1)垂直材:床束、縁束、柱(管柱・通柱)、小屋束、間柱 2)水平材:土台、大引、根太、軒桁、敷居、鴨居、長押、母屋、棟木、台輪、胴差、 一筋敷居、一筋鴨居、回縁、広木舞、淀、火打(燧)、框(上り框、床框)、足搦、 楯、(窓楯)、窓台 4)ここで、縁側の屋根部(化粧垂木のところなど)の名称を図示。 ・木造平屋建て住宅を断面に分解した「木造骨組・下地・仕上げ理解図」を図示。この図を与え、部材の位置ごとの名称を演習している。 ・軒の先端部の名称:種々の言い方があるので図示。 広木舞、淀、茅負(神社建築)、- - - 1-2.用語の解説:在来木造工法で使われる数ある用語の中から代表的な用語をあげ、理解する。事例: 决り(合决)散り决り)、 猿(寄せ、上げ、下げ、猿頬、猿:雨戸の戸締まりのとき上下左右に動くところ))、猫(車、障子)、蜻蛉、 貝の口(床框の下の少し入っているところ)、根と穂(かきね:生け垣の下の部分、生け垣の上の部分はカキホという。ホが消えてかきねになってしまった。翌檜(あすなろ)、四阿(あずまや:読めない人多い))、三和土(たたき)、東障子(江戸の方、明治以降の話でガラスの入った障子、知らない人多い)、あばた、蟻、尻(石尻:検知石の先のとがった方)、鶡(いすか:元は鳥の名前、口が曲がっている)、蟇股(かえるまた)、一文字(瓦、葺き)、 稲妻、犬釘、芋(目地)、小穴(細いミゾがずっと続いてゆく)、牛梁(丑梁:むくりのついた梁)、卯建、稲子、肘と壺(雌と雄)、下げ芋、 小間返し、胡粉、見付と見込み、小口、注連(しめ)(縄、板)、祝儀敷き、 吸い付き蟻桟、太鼓落とし、蛸、タタラ(踏鞘)、ハゼ(鈎)、端喰(はしばみ) ・・・以下略 いろいろ名称を教えながらやっている。 1-3.屋根の種類を図示解説。[起り(むくり)、反り・照りを含めて] 1-4.知らないと困る各部材の断面寸法をあげる 土台、管柱、通し柱、床束、大引、根太(@910、@455-)、 間柱(真壁、大壁)、 頭繋ぎ、小屋梁の成・陸梁、丸太の末口、 小屋束、母屋、垂木、 2階床根太、 窓台、窓まぐさ、敷居、鴨居、長押、落とし掛け、廻り縁、ドア枠、フローリング厚さ・・・・ 1-5.製図演習問題 T: 1)平面図を1/100で書く。次に詳しい内容を表現した1/50の図面を書く。 更に1/20で書いて例えば和風真壁と洋風大壁の収まりの違いがわかるようにする。 それぞれの縮尺ごとに意図する設計内容を理解検討し、表現する。 2)1/100のプランを構造・構法的に分析し、@基礎伏図(1/100;布基礎と沓石、コンクリートタタキの関係、床下換気口位置)、A床伏せ図(1/100;大引きと根太・火打ちの関係) B小屋伏せ図(たるきを@455で先に描く、母屋を軒桁から@910で描く 母屋を支える梁を@1820以下に入れる、 3)2階建てプランモデル作成(1/100)――この図で、以下、各伏せ図を描いてゆく A.基礎伏せ図を書く順序と方法を具体的に詳しく解説したうえで、基礎伏せ図を作成する。 (図を掲載) B.束立て床伏せ図(1階床伏せ図)を描く順序と方法を具体的に詳しく解説したうえで、実際に床伏図(1/100)を作成する。(図を掲載) トレペを重ねて描くなどのノウハウ。 C.屋根伏せ図の原則について具体的に詳しく解説 ・屋根伏せ図の書き方と順序 事例として、寄棟の屋根伏せ図を作る順序:まず寄せ棟で押さえる→棟の線→谷の線→・・・・・ モデル作図を図示 ・演習:次の各建物に1)切妻、2)寄棟で屋根伏図を描け!:6パタンの平面形の住宅18棟について屋根伏図を描く。 D.梁床伏せ図(2階床伏せ図)を描く順序と書き方を解説 寄棟(屋根の原型)を基に、切妻1、切妻2.入母屋の各タイプ。 モデル作図を図示。更に部材と構法がわかるアイソメ図解を図示。 E.小屋伏せ図(切妻)を描く順序と書き方を詳しく解説 1階小屋伏図、2階床伏図、2階小屋伏図のモデル作図を図示。 F.寄棟の小屋伏図を描く順序と書き方を解説。 棟、降り棟、小屋梁、軒桁、妻桁の関係をわかりやすく図示。 1階及び2階小屋伏図の作図モデルを図示。 以上3ケースくらいやると理解してくる。 よく理解するには3ヶ月くらいかかる。 以上の中善寺氏の教程の話をもとに木造住宅建築設計の問題点や課題について意見交換がなされた。 なお、木工塾の住計画設計事務所 原 氏担当の教程では、品確法準拠の床構面の構法概念及び耐力壁線の考えが導入されている設計法によっている。(原氏) 1-6.野本邸納屋改修工事物件(埼玉県加須市 敷地500坪ほど)引き合い・折衝の次第について 生活空間にも使用していた野本邸納屋建築を改修・再生する物件について引き合い・調査・実測・改修設計・折衝・施主側事情による結論を得るまで、更に最終的には新築案の提示に至る一連のプロセスと終始についてのストーリーを写真・実測図・詳細図を含む改修設計図とともに解説された。 現場の視察し改修が可能であることを先方に伝える。ベンチーマークの入った種々の角度からの現況写真、現況の綿密な把握・実測をもとに現状実測図を作成。改修平面を作成提示して了解をとる。 改修再生設計図として、平面図・展開図・立面図・構造図・既存の柱・梁をそのまま利用した矩形図、インテリアパース・設備図等図面17枚を作成。途中施主の了解を得ながら進めるも、ご両親や年長の親類の方々の反対に会い、改修再生計画は断念となった。 新築案を考えることになり、提示するも最終的にこれも断念し、住宅メーカーに頼むことになった。 すばらしい改修案になるところであったが、若い世代の方が前向きなのに対して、民家再生の値打ちが解らない年長の人が多くその後は見てないが寂しいことだ。 ・ここで、野本邸の改修案について、矩計詳細図をみながら、しばし質疑と意見交換。 1-7.所沢市 大高邸新築工事について、第一回打ち合わせ・ヒアリングから、平面案、エスキース・修正図・展開図・各室説明を経て確認申請に必要な設計図書作成・設備・確認・工務店・見積もり・公庫・金額確定・契約・設計監理・着工・完成に至る一連のプロセスについて日程を交えて説明。 ・野本邸のように設計図ができた段階で、仕事が住宅メーカーへいってしまうケースがいくつもあったし、設計事務所にオーダーで設計を依頼する人が相当に減ってしまった。 ・書籍 中善寺紀子氏著、相模書房刊 私の民家改修日誌「よみがえる民家」を読み、見られた人からは問い合わせが多々ある。 ・構法をきちんと伝えてゆくことが大事である。 ・建築基準法でやっていると説明するのにあいまいなところがでる。大地震がくるとどうなるかの説明がなかなかできない。品確法に基づく耐力壁量は基準法の1.5倍であるが、この違いを施主に意識してもらわないとまずい。 ・「三権分立」の話をしないと一般の施主の方は設計者・設計事務所の役割を理解しない。 設計施工で大工・工務店に頼むことが当然と思われている。 ではその設計図を誰がチェックするのか。工事見積もりは誰がチェックするのか。チェックするのは工務店・業者の方であると思いこんでいる方が多い。 チェックの仕事などをやるのが「立法」の立場ですと説いて、はじめて「では設計をおねがいします」となる。 ・ 以上のように、関連した現在の問題点を含めた論議がひきつづき半時間ほど活発に行われた。 * 中善寺氏が度々説かれる住宅建築の仕事をするうえでの三権分立の内容を以下のように図示された。
立法 行政 作曲家 オーケストラ
以上の中善寺氏のお話をもとに、木造住宅建築設計教育について、問題点や課題など意見交換がなされた。
[温熱環境計画] 主旨:現代の住宅が失った伝統住宅建築(伝統的民家)の夏期における熱環境設計手法を再認識し、その復権を現代的に試みる事例と意義を確認する。 即ち自然エネルギー利用手法としてのパッシブ手法。その中の通風機能のある開口部日射遮蔽装置及びシェルター設計における熱機能・性能活用の重要性について述べ、その具体的な対策として3つの方法と実施例を解説された。更にその延長線にある地中熱の利用についても触れられた。 以下に述べられた内容を再掲する。 2-1.シェーディング計画・遮熱計画のすすめ 1)伝統民家から学ぶ夏期温熱環境設計・遮熱手法と現代住宅の問題点 戦後の住宅は、屋根・外壁部位とも伝統建築に比して非常に軽量になったうえ、庇の長さも短くなった。 耐震性及び施工性、コストについては結構なことであったが、代替手法が十分に考えられなかったため、住宅の熱環境性能からみれば失われたものも多い。 よくいわれるところでもあるが伝統民家建築から学ぶ温熱環境をよくする方策・手法としては: 植栽樹木、照り返し防止、通風利用、高い天井、廃熱、熱除去、放熱、夜間冷気の取り入れ、換気、急勾配屋根、適度な熱容量建築材料構成(温度拡散減衰、位相の振幅のれ現象の活用)、屋根断熱、外断熱屋根、置き屋根、庇、開口部の自在な開放、閉鎖、湿気調節力の保持(できれば石膏ボードクロスではなく、漆喰・土壁、木材仕上げなど吸放湿性材料の使用)などをあげられた。 また、「伝統民家に学ぶパッシブ手法」として写真資料をもとに解説された。 住宅の温熱環境設計手法については部分的手法が各方面で述べられ普及はしているものの、総合的な方法については我が国の現状では啓蒙普及されていない。専門書でも総合的な扱いは見ない。 海外、例えばAustraliaでは環境共生・サステナブル住宅をつくるための(設計上の)多面的な工夫のガイドラインが実に念入りに具体的でわかりやゆく作成され、設計者・施主をはじめ、国民一般にマニュアルの形で提示されて、そのノウハウ・内容の情報が無料で広く公開されている。 我が国では専門家・専門業者・住宅メーカー向けなどに専門的な事項を多くは有料で提示しているに過ぎない。一般的には新聞雑誌が夏が近づくと暑い夏を過ごし易くするための省エネ的生活の知恵を啓蒙宇するくらいのところでとどまっている。(伝統建築時代にはごく常識的に認識されていたのであるが)。 Australiaの温熱マニュアルの中では「パッシブデザイン*」手法の項目の中に
熱容量・パッシブクーリング・断熱・パッシブソーラーなどに並んで、「Shading」という項目を独立して扱っている。 これがここでいう住宅温熱環境計画における「シェーディング」である。 我が国ではこの手法を戦後放棄してまった。 あるいは切り捨ててしまった。 それは奇しくも伝統木造(住宅建築)を重視しなくなったこととリンクしているという。 *PASSIVE
DESIGNで扱っている項目−−−−Shading、Passive Solar Heating、 (オーストラリア) Passive
Cooling、Insulation、Installation、Thermal Mass 等々 2)開口部の遮熱対策→夏期には開口部に日陰を造り、通風を図りながら防犯性能も確保することのすすめ 高温多湿の我が国気候風土の中で、夏を旨として建てられてきた建物・住宅の軒庇が戦後はなくなり、あっても極端に短くなり、窓など開口部からの熱の流入は野放しになってしまった。 省エネ省エネと騒ぐ割には、ヘチマ棚など緑のカーテン造りが一部の人の間でいわれても普及はせず、カーテンや、室内ブラインドをおろすことくらい。風を流入させたい場合を含め、一般的には安価なすだれを掛けるくらいが精一杯。よくても葦簀張り。 後は毎年新製品が発売される高性能省エネエアコンに買い換えて過ごしなさいといったレベルの話になっているのが現状である。 そこで住宅の 開口部は熱線カット複層ガラスを入れたサッシとなる。(それもよい方法だがこれは窓を開けて風を入れたい場合は意味をなさないし、これだけでは絶大な効果があるというところまではいかない。 要するに住宅のシェルター設計段階で夏期に住宅を日陰にすることの発想が欠如している。 現代の我が国住宅建築では「開口部装置=窓のシステム」の再構築が課題であり、実施例としてシャッターのスラットー部にも開閉機能(通風機能)をもつ外付けブラインド製品・施工例と熱遮蔽効果例が紹介された。(@多機能外付けブラインドシャッッターの遮熱効果,スダレとの遮熱効果比較、A多機能外付ブラインドシャッター取り付け施工事例 3階建・2階建・技術資料) 夜間風の確保で夜間の温度低下を実現できる。夜間は室内が外気より高くなることが多いが防犯上の安全性を確保の上で開口部からの通風・廃熱をすることで室温を下げられるという。
3)屋根・天井部位の遮熱対策として、屋根掛け・置き屋根(二重屋根)、外断熱屋根のすすめ 壁については鉄筋コンクリート造の外断熱工法や木造住宅の外張り断熱構法(世間ではこれも外断熱と称しているが)が知られるが、屋根部位の遮熱については昔にくらべて一般の人々・建築関係者ともに関心が少ない。現代の屋根は往時にくらべて軽量屋根一辺倒になったが地震対策上の効用はあるものの、「熱機能」は著しく貧困になってしまったという。(土壁工法が減退した外周壁についても同じことがいえるという) 現代建築で多数派となった平らな屋根即ち「陸屋根」における遮熱対策は、陸屋根外断熱が効果的であり、実測データ*をもとに解説された。 また勾配屋根については屋根掛け・置屋根の思想、あるいは屋根傾斜部位での外断熱工法が熱機能の保持に効果的であるとしている。
*示されたデータ@:住宅の陸屋根を外断熱工法にした場合の遮熱効果(実測に基づく概念図) A置き屋根(二重屋根)にする場合及び勾配屋根の外断熱構法)概念図 伝統民家に付属する土蔵では屋根部位からの熱の流入は二重屋根で対処している。 土蔵建築の場合は昔から庇が短いが、(夏期太陽高度は高い。 庇が長いと熱容量の大きな土蔵からの除熱量は減るという)土壁の熱容量が微妙に大きなシェルターからの熱流入は「温度拡散減衰現象や位相の遅れ現象」で少なくでき、さらには土間(土)の蓄冷熱輻射効果も期待出来、夏期における家の中は一般家屋よりも涼しい。 *土蔵の壁体は表面温度の変化振幅が大きくても部材などシェルター内部での温度変化を小さくする。(内部温度変動を小さくするには温度拡散係数aを小さくすればよい。
即ち a=λ/cρ c=比熱、ρ=密度 →熱伝導率を小さくし、体積熱容量cρを大きくすればよい) ・ 遮熱効果の大きい材料「厚い土壁」:温度拡散係数aを小さくすると遮熱効果がでる。 →土蔵が厚い土壁で造られてきた理由
2-2.地熱利用の可能性 今回、「熱機能・性能」の中で、温度拡散振幅現象や熱伝導(移動)の位相の遅れ現象などについてふれたこともあり、地中熱利用についても関東地区(茨城県水戸市)における地中熱の年間温度変化位相の遅れデータ:出典、近藤正純氏「地表面に近い大気の科学」(東京大学出版発行)を例にとりながら解説された。
(J.S記)
→写真資料別添「伝統民家にみるパッシブ手法」
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